人事×AI 採用・離職防止・キャリア構築のための活用事例と進め方
近年、人事領域におけるAI・データ分析の活用が進んできています。しかし、いざ人事領域でのデータ分析に本腰を入れようと思っても、「人事領域でのAI・データ活用は何ができるのか?」「どうやって進めればいいのか?」「何に気をつけたらいいのか?」などが見当もつかない方も多いと思います。
この記事では、人事領域でデータ分析を担当することになった皆様に、「人事領域のAI・データ分析でできることと」「データ分析の進め方」「人事領域のデータを扱う際に気をつけること」を、具体的な事例を交えつつ説明します。
人事領域にAIを活用するメリット
人事の作業工数の削減
人事領域にAIを活用する一つ目のメリットは、人事部門の人員の作業工数を削減できることです。
例えば採用プロセスにおいては、AIは沢山の履歴書をスクリーニングして、会社に適する可能性の高い候補者を特定することができます。
これにより、採用担当者の作業時間を作成し、採用担当者がやるべきこと–採用戦略の立案や、有望な候補者へのフォローアップなどにかける時間を増やすことができます。
従業員のキャリアに対する満足度の向上
二つ目のメリットは、従業員のキャリアの満足度を向上させられることです。AIを使うことで、個々の従業員に合わせたキャリア支援や人員配置を行うことができます。
例えばAIは従業員の満足度やスキルギャップを分析することで、適切なキャリアプランのためのトレーニングを提供したり、人員配置の最適化に役立てることができます。
個々の従業員について上記のような分析をすることは、AIを使わないと困難です。なぜなら、人手では工数がかかりすぎたり、あらゆる要因を検討し尽くすことができないためです。したがって、従業員のキャリアに対する満足度の向上の向上はAIを活用した場合のメリットであると言えます。
より公平な意思決定の支援
三つ目のメリットは、より公平な意思決定を支援できることです。適切に作られたAIを使えば、採用や人事評価において、人の持つ無意識のバイアスを減らし、より公平な判断を支援できます。
例えば、人事評価にAIを使用することで、誰に対しても同じ基準で判断を下すことができます。
人が判断をする場合、好き嫌いや、主観によるバイアス、その時の期限などの無意識のバイアスが入る可能性があります。AIを使うことで、そのようなバイアスを除いた客観的な判断ができます。
人事データにAI・機械学習を活用した事例
採用におけるAI活用
採用の目的では主に、以下のような方向でAIが活用されています
履歴書分析
履歴書の内容をAIで分析し、ある応募者がどれだけ求人に対して適しているかを予測するという例があります。また別の観点では、履歴書の中から、現在の求人に対して関連のある箇所を抽出して、履歴書確認の効率化を図っている事例もあります。
レコメンデーション
ある企業では、転職プラットフォームなどで公開されている履歴書の内容を使って、各求人に対する候補者のランキング付けをしています。この方法は、例えば誰を相手に求人のDMを送るかの判断などに使うことができます。
面接評価、行動分析
面接のプロセスにAIを導入している企業もあります。ソフトバンク社は2020年、新卒採用面接のプロセスにAIを導入することを発表しました。ソフトバンクでは面接の動画データをAIに読み込ませて、動画の評価を自動的に判定しているとのことです。
面接ではなく、それ以外の振る舞いに着目するような事例もあります。候補者の行動を分析して、候補者の入社後のパフォーマンスを予測するという事例も存在しています。動画データから候補者の行動パターンや振る舞いを読み取り、それと各種テストのスコアを分析することで、候補者の能力を測るという手法について、実証研究が進んでいます。
従業員のエンゲージメントのためのAI活用
従業員のエンゲージメントでは、「従業員の退職の予測」がメインのトピックです。
従業員の退職の予測
従業員の退職の兆候を検知して、早期に手を打つことを目的に、さまざまな手法が試されています。ゴールは従業員の退職予測ですが、入力に何を使用するかは、事例によってさまざまです。ある事例では、従業員のEメールでのやり取りから、退職の兆候を検知できないかを検証しています。また別の事例では、従業員のプロフィールや環境要因、同僚の退職などを要因として予測を試みています。
キャリア構築支援のためのAI活用
キャリア構築支援の目的では主に、以下のような方向でAIが活用されています
訓練と能力開発
従業員のスキルを分析して、必要な訓練の提供や能力開発を提供することを目指します。ある事例では、従業員の現状の能力を分析して、現在不足している、または伸ばすべき能力を特定し、それを伸ばすような研修プログラムを提案するようなツールを開発しています。
昇進の判断、人事評価
昇進や、人事評価にAIを使用する例もあります。例えば、複数の要因から従業員のパフォーマンスを評価する事例があります。また、昇進に必要な能力要件を特定し、候補者が昇進に十分な能力を持っているかの予測をするような事例があります。その他、IoTセンサーなどを使って、昇進後の従業員の行動に変化がみられないかを特定するという事例もあります。
人事データのAI活用の進め方
人事データであっても、データ分析・AI構築の進め方は他の分野と大きくは変わりません。各ステップを見ていきましょう。
現状を把握する(課題・目的を明確にする)
まずは、何を解決するために(もしくは何を得るために)AIを導入するかを明確にすることです。そのために、現在の問題点や改善点を分析します。これによって、AIを導入すること自体が目的となることを防げます。
要件定義する
課題が明確になったら、AIによって成し遂げたい要件を定義します。AIによって、何を解決するか?AIからどのような出力を得たいか?AIの出力結果をどのように活用するか?などを明確にします。
合わせて、そのために必要なデータの要件も明確にします。
データ収集
AIの構築に必要なデータを収集します。
前処理
収集したデータを確認して、本当にそのデータが利用可能かを確認します。もし、データの形式が適していなければ、データを加工します。
例えば、データに空白が多かったり、値が偏っている場合には、AIの手法によってはうまく構築できない可能性があります。そのような場合には、空白を埋めたり、値の偏りを軽減するために変換をかけます。
モデル構築
AIを構築します。ここでは、目的に合わせて「教師あり手法」「教師なし手法」「強化学習」などの手法を選択します。
精度評価
AIの出力の精度を評価します。例えば「従業員の退職予測」のモデルの場合は、実際に退職した/していない従業員をどれだけ高精度に当てられているかを検証します。
繰り返す
通常、AIの構築作業は1サイクルでは終わりません。思うような精度が出なかったり、他の手法も試してみたいというケースが多いです。したがって、このAI構築作業を何度も繰り返して、最終的なAIの構築をします。
人事データをAIで扱う場合の注意点
個人情報保護の観点
人事データの多くは、個人情報を含みます。したがって、その取り扱いには十分に注意が必要です。例えば、個人を特定できないようにデータをマスクしたり、安易にデータを外部に出さないような注意が必要です。
公平性を損ねないかを熟考する
適切に作られたAIを使えばより公平な判断を支援できる一方で、不適切な作り方をすると公平性を損なうような判断をするAIを作ってしまう可能性があります。
例えば、履歴書分析をするAIを作成する場合、例えば求職者の出身地や性別をAIの入力に含めてしまうと、特定の出身地・特定の性別の候補者を低く評価するようなAIが作られる可能性があります。これはその求職者のパフォーマンスとは無関係な要素であり、明かに公平性を損ねています。
このようなAIを作らないためには、何を基準に判断をするか、そしてその判断が公平性を損ねるものでないかをよく考えてモデルを構築する必要があります。また、AIにはブラックボックス的な側面があるため、実際に構築した後のモデルが偏った判断をしていないかを実際に確かめることも重要です。
公平性を損ねないかを熟考する
人事AIが扱うテーマは、求職者や従業員の人生を左右する非常にセンシティブなものになり得ます。従って、あくまでAIの評価を参考に、最終的には人の判断を入れるステップを含めるなど、評価される側も納得のいくような運用をする必要があります。
まとめ
この記事では、「人事領域のAI・データ分析でできることと」「データ分析の進め方」「人事領域のデータを扱う際に気をつけること」を、具体的な事例を交えつつ説明しました。
参考
- Gryncewicz, W., Zygała, R., & Pilch, A. (2023). AI in HRM: case study analysis. Preliminary research. Procedia Computer Science, 225, 2351-2360. https://doi.org/10.1016/j.procs.2023.10.226