File Icons
BLOG
製造業における予測メンテナンス手法の概要
  • この記事では、機械学習を用いた設備メンテナンス手法である「予測メンテナンス」について説明します。
  • 「予測メンテナンス」によって、設備の故障を事前に予測し、製造設備の予期せぬ故障や過剰メンテナンスによる損失を防ぐことができます。
  • 「予測メンテナンス」の定義、従来手法との比較、導入手順、教師なし学習手法の活用、さらに製品不良検知への応用方法を説明します。

予測メンテナンスとは

予測メンテナンスとは、製造業の製造設備などのメンテナンス戦略の一つです。予測メンテナンスでは、メンテナンスの必要性を予測することで、予定外の故障による損失の発生を防ぎつつ、不要なメンテナンスによるコストも削減します。

メンテナンスの必要性の予測には、現場の設備から取得されたデータを利用します。センサーやカメラなどで設備の状態を表すようなデータを取得し、そこから分析情報を抽出し、その分析情報に基づいて決定を下します。

メンテナンスの種類

まずは、一般的なメンテナンスを実施タイミングの観点で分類し、それらを比較したときの予測メンテナンスのメリットを見てみます。

  • 事後対応メンテナンス
  • 予防メンテナンス
  • 予測メンテナンス

事後対応メンテナンス

事後対応メンテナンスは、故障や異常などの問題が発生した後にメンテナンスを行う。したがって、事後対応メンテナンスは設備の寿命の限りは、メンテナンスのコストを一切かけずに使うことができます。ただし、一度故障すると、そのダウンタイムや修理費用がどれくらいになるかは予測が困難です。また、故障によって二次的な問題が発生する可能性もあります。

予防メンテナンス

予防メンテナンスは、事前に決められた期間毎に設備のメンテナンスを行います。この期間は、過去の故障頻度や、シミュレーションなどに基づいて決められます。予防メンテナンスの利点は、定期的なメンテナンスによって設備の寿命を延ばせることです。一方で欠点として、不要なメンテナンスをする可能性があります。例えば、まだ耐用期間が残っている部品でも、次のメンテナンスまでの期間との兼ね合いで早めに交換するといったケースが発生します。また、次のメンテナンスを迎える前に設備が故障してしまうこともあります。

予測メンテナンス

予測メンテナンスは、モデルを使用して、設備毎に故障が発生する可能性が高い時期を予測し、必要なタイミングで必要なメンテナンスを行います。予測メンテナンスのメリットは、設備の寿命を伸ばしつつ寿命いっぱい使えることです、加えて、不要なメンテナンスのコストを削減することができます。欠点は、データの収集やモデルの作成のコストがかかること、必要なタイミングでメンテナンスを行えるような柔軟な運用体制が必要なため実行が難しいことが挙げられます。

予測メンテナンスの始め方

データの収集

予測メンテナンスの実行は、まず初めにデータを集めることから始まります。データには、正常な状態だけではなく、障害の最中とその前後のデータも含まれている必要があります。

データを集めるために、センサーやカメラなどの機器がよく使われます。加えて、そのデータを収集し保持しておくパイプラインおよびデータベースの構築も必要になります。

予測メンテナンスの要件定義

データが集まったら、予測メンテナンスの対象について要件を固めます。まず第一に、予測対象とする障害の種類を決めます。障害の種類によって、予測に必要なデータやアプローチが変わるため、まずは予測対象を定めることが重要です。

また、予測結果としてどのような形式の出力が欲しいかも決めておきます。一口に予測と言っても、その予測結果の返し方はさまざまです。例えば、「故障の兆候があるかどうかを”はい/いいえ”で返す」「今後t時間以内に故障をする確率を0~100%の間の数値でかえす」「その設備の寿命”t(時間)”を返す」など、要件によって色々な返し方が考えられます。

この返し方は、予測メンテナンスの運用体制に影響を与えます。何を判断基準に予測メンテナンスを行うかは、モデルの出力に依存するからです。したがって、出力形式を要件として決めておくことも重要です。

予測モデルの作成

データが集まり、出力の要件も決まったら、故障を予測するためのモデルを作成します。ここでは目的およびデータの特徴によって、異常検知のための様々な手法を選択することができます。

このシリーズでは、特に教師なしの異常検知手法に焦点を当てて、予測モデルを解説したいと思います。

なぜ教師なし手法を使うのか

教師なし手法に焦点を当てる理由は、3つあります。

一つ目の理由は、データの蓄積を今まさに始めた企業にとっては、教師あり手法に比べて、教師なし手法の方が早く使い始めるのに適していると考えるためです。教師あり学習は事前に十分な期間運用されてデータが蓄積されており、何度か故障した経験がないと使うことができません。対して、教師なし学習はデータが限られており、故障した経験がなかったとしても故障を検知できる可能性があります。

この記事の事例は、これからデータの蓄積を始めたいと考えている企業を想定しています。そのような企業にとっては、早期に実証に移れるという観点で、最小限のデータで使える教師なし手法が適していると考えられます。

二つ目の理由は、未知のパターンの異常を検知できる可能性があることです。教師あり学習の場合、教師データに含まれる故障の前兆パターンを学習するため、そのパターンに当てはまらないデータは

三つ目の理由は、不均衡データとしての特別な対処を考慮する必要がないことです。一般に異常検知の場合は

もちろん、要件によっては教師あり手法の方が精度良く予測できる可能性があります。一般に、十分な量の良質なラベル付きデータが利用可能であり、予測対象が十分にパターン化されている場合、教師あり学習は高い精度を示すことが知られています。

本シリーズでは、これからデータを収集し始める企業が最初のモデルを作るような状況。言い換えると、履歴データがなかったり、あったとしても最小限しかないような状況を仮定して、その状況に適した教師なし予測に注目します。

主な手法


ホテリングのT2統計量

ホテリングのT2統計量は、多変量データの分布を単一の統計量に集約し、正常状態からの逸脱を検出する異常検知手法です。複数の変数間の相関を考慮しながら高感度な検知が可能で、結果の解釈が容易という利点がありますが、正規分布を仮定しているため非線形関係や非正規データへの適用に限界があります。また、外れ値に敏感で適切なしきい値設定が難しいという課題もあり、データの特性や応用分野に応じて他の手法との組み合わせを検討する必要があります。

階層的クラスタリング

階層的クラスタリングは、データポイント間の類似性に基づいてデータを階層的な構造に組織化する教師なし学習手法です。この手法は、データの階層構造を視覚化できる樹形図(デンドログラム)を生成し、異なる粒度でのクラスタリング結果を提供するため、データの構造を詳細に理解するのに役立ちます。しかし、大規模データセットに対しては計算コストが高く、一度結合されたクラスタを分割できないという制約があるため、データの初期順序に敏感で、ノイズの多いデータセットでは性能が低下する可能性があります。

K-means

K-meansは、データをK個の事前に指定されたクラスタに分割する教師なし学習手法で、各データポイントを最も近いクラスタ中心に割り当て、中心を再計算する過程を繰り返すことで最適なクラスタリングを見つけ出します。この手法は実装が簡単で計算効率が良く、大規模データセットにも適用可能ですが、初期中心点の選択に結果が依存し、非球形のクラスタや異なるサイズのクラスタの検出に適していないという制限があります。また、Kの値を事前に決定する必要があり、この選択がクラスタリング結果の質に大きく影響するため、適切なK値の決定が課題となります。

Fuzzy C-means

Fuzzy C-meansは、各データポイントが複数のクラスタに属する可能性を持つ柔軟なクラスタリング手法です。従来のハードクラスタリングとは異なり、データポイントの各クラスタへの帰属度を0から1の範囲で割り当て、これにより重複や曖昧な境界を持つデータセットに対してより自然な分類を提供します。この手法は、データの不確実性や曖昧さを扱うのに適していますが、メンバーシップ関数の選択や終了条件の設定が結果に大きく影響し、外れ値に敏感であるため、ノイズの多いデータセットでは性能が低下する可能性があります。

GMM(ガウシアン混合モデル)

GMM(ガウシアン混合モデル)は、複数の正規分布の重み付き和としてデータの確率分布をモデル化する確率的モデルです。このモデルは、各クラスタを一つの正規分布で表現し、期待値最大化(EM)アルゴリズムを用いてパラメータを推定することで、複雑な形状のクラスタや重なり合ったクラスタを柔軟に表現できます。GMMは確率的な解釈が可能で、不確実性を定量化できる利点がありますが、初期値の選択に敏感で局所最適解に陥りやすく、また正規分布を仮定しているため、非ガウス分布のデータに対しては適切にモデル化できない可能性があります。

製品の不良検知への応用例

この予測メンテナンスは、設備側の異常を検知するのを目的としていますが、製品側の異常検知に応用することも可能です。特にプロセスの異常と製造された製品の異常が関連している場合に、簡単に応用することができます。例えば、以下のような事例が考えられます

  1. 半導体製造
    温度制御の異常が原因で、ウェハー上の回路パターンが正確に形成されない。これにより、最終的な半導体チップの性能低下や不良品が発生する。

  2. 自動車部品製造
    塗装ラインでの湿度管理の不具合により、車体部品の塗装ムラや剥がれが発生する。これが原因で、完成車の外観品質や耐久性に問題が生じる。

  3. 食品加工
    殺菌工程での温度制御の異常により、食品中の有害菌が完全に除去されない。その結果、製品の賞味期限が短くなったり、最悪の場合は食中毒のリスクが高まる。

  4. 製薬産業
    混合工程での攪拌速度の異常により、薬剤の成分が均一に分散されない。これにより、錠剤やカプセルの有効成分含有量にばらつきが生じ、薬効に影響を与える。

  5. 鉄鋼製造
    冷却工程での冷却速度の異常により、鋼材の結晶構造に変化が生じる。これが原因で、最終製品の強度や靭性に問題が発生する。

このようなケースでは、プロセスの異常が製造される製品の不良に直結するため、不良製品の製造を早期に検知して、不良製品の製造に伴うコストを削減することができます。

参考

CONTACT
ご依頼やご相談、サービスについてのご質問やご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
送付いただいた内容を確認の上、担当者からご連絡させていただきます。
お問い合わせ